弁護士臼井義幸の交通事故ブログ

交通事故を専門に、日常事件を取り上げます。

むち打ちの後遺障害認定(14級)

後遺障害は、通常、事故受傷から6カ月を経過した後に症状固定と診断された時点で申請します。
後遺障害等級は、自賠責保険会社を窓口にして、損害保険料率算出機構に属する自賠責損害調査センター調査事務所が認定しています。
よくあるケースとしては、頸椎捻挫(いわゆるムチウチ)につき後遺障害を申請する場合ですが、14級に該当という方もいれば、非該当という方もいます。
非該当の理由としては、
①「画像上、異常所見は認め難い」、②「神経学的所見は認められない」、③「症状経過、治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」と記載されていることが多いです。


①については、頸椎の全体に、年齢変性所見が乏しく、経過のMRIで、C4/5,C5/6,C6/7のいずれかにヘルニア所見=椎間板突出が認められているかなどが判断材料とされています。


②については、「事故直後から、左右いずれかの上肢、肩から手指にかけて、だるさ感、重さ感、痺れなどの症状が認められたか」、「それが今も継続しているか」、「自覚症状に一致して、スパーリング、ジャクソン、神経根誘発テスト等で陽性反応を示しているか」などが判断材料とされています。


③については、通院日数・期間などが考慮されます。
画像上異常所見がなく、神経学的所見が認められない被害者でも14級が認定される方もいますが、受傷後の実通院日数は1カ月あたり15日以上(トータルの通院期間も1年以上)という方が多いようです。



信濃法律事務所 弁護士 臼井義幸












むち打ちの後遺障害認定(12級)

1 むち打ちと後遺障害等級
交通事故による後遺障害のうち、最も多いのは、頚椎捻挫後の頚部痛・手のしびれ、腰椎捻挫後の腰痛・足のしびれ等の症状が残存してしまうという障害です。
同じ「頸椎捻挫」、「腰椎捻挫」という傷病名でも、実際に後遺障害等級認定の申請をしてみると、「非該当」、「14級9号」、「12級13号」と結論が分かれてしまうことはよくあります。
「非該当」であれば保険会社が提示する示談金額は100万円以下のことが多いですが、「14級9号」が認定されれば裁判所・弁護士基準で300~400万円程度の金額になることも珍しくなく、「12級13号」が認定されれば800~1000万円程度の金額になることもあります。このように、同じ頚椎捻挫・腰椎捻挫と診断され、症状が残ってしまった場合でもどう認定されるかによって、損害賠償の金額に随分と大きな違いが生じてしまいます。


2 認定基準
後遺障害別等級表・別表第2において、12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされており、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」とされていますので、「頑固な」が付くか付かないかの違いしかありません。
そこで、認定基準の説明を見ると、12級13号は「神経系統の障害が他覚的所見により医学的に証明されるもの」をいい、14級9号は「神経系統の障害が医学的に推定され、説明のつくもの」をいうとされています。すなわち、症状固定後にも残存する痛みやしびれ(神経系統の障害)について
医学的証明がなされている場合→12級13号
医学的証明はなされていないが説明はつく場合→14級9号
医学的証明がなされておらず、かつ、説明もつかない場合→非該当
ということになります。



3 12級が認定される場合
「頸椎捻挫」・「腰椎捻挫」との診断名では、ほとんど14級9号にとどまるのが実情です。その中でも、ごくまれに12級13号の認定を受けられる場合があります。
12級13号と14級9号の違いは、上記のとおり、残存した神経系統の障害について、医学的「証明」がなされているか、それとも「説明」できるにとどまるかです。
「証明」と「説明」…非常に相対的な概念に思えますが、具体的な分水嶺はどこでしょうか。


(1)画像所見
結論から言うと、自覚症状と整合する「画像所見」があるか否かです。これに尽きるといっても過言ではありません。
すなわち、むち打ち症で12級13号の認定を受けるには、MRI画像に、椎間板のヘルニア変性、脊柱管狭窄などによる神経根の圧迫といった異常所見が明確に映し出されていることが不可欠といえます。そして、当該神経の支配領域に痛みやしびれの症状が生じていなければならないのです。


(2)因果関係(外傷性)
さらに、画像上明確な異常所見があっても、それだけでは足りず、その異常所見が事故によって生じた外傷性のものである必要があります。
実は、医学的には、椎間板や椎体の変性は、加齢によって生じるケース(いわゆる「年齢変性」「経年性」)がほとんどで、交通事故によって椎間板や椎体の変性が生じる可能性は低いと考えられています。
しかし、事故の衝撃の大きさや、受傷機転次第では、椎間板や椎体の変性が生じることもあるとされています。
では、椎間板や椎体の変性が外傷性のものと言えるのはどのような場合でしょうか。
通常、人は30歳を超えた頃から脊椎には何らかの加齢による異常が生じてきます。
そして、椎間板についていえば、複数箇所に変性や膨隆が生じていればそれは「年齢変性」「経年性」のものと捉えられるのです。逆に言えば、椎間板の変性・膨隆の箇所が1か所か2か所程度であれば、それは「年齢変性」「経年性」のものではないと推測することができるのです。
他にも、MRI画像からその椎間板の変性がかなり前から生じていたものなのか、比較的最近になって生じたものなのかで外傷性であるかを判断することができる場合もあります。事故以前にMRIを撮影していてその画像には椎間板の変性が写っていないようであれば、事故後に生じた変性は事故によるものと考えることができるでしょう。


(3)まとめ
12級13号の認定を受けるためには、上記のとおり、画像上明確な異常所見の存在が不可欠ですので、事故後なるべく早い段階で精度の高いMRI撮影をしてもらいましょう。
また、後遺障害等級認定手続が書面審査であることには変わりありませんので、医師に有意な画像所見(画像上捉えられる病変及びそれが外傷性のものと判断されるのであればその根拠)や自覚症状と整合する神経学的所見を後遺障害診断書に記載してもらうことも非常に重要となってきます。


4 やるべきこと(まとめ)
① 早期のレントゲン・MRI検査の実施
事故直後のMRI画像で、新鮮なヘルニア病変が確認できれば、事故との因果関係が認められる可能性が高まる。
② 神経学的検査の実施
精度の高い神経学的検査を受けることで、一貫性のある神経学的異常所見を明らかにする。
③ 適切な後遺障害診断書の入手
主治医に、外傷性の病変であることと、そのように診断した根拠を診断書に記載してもらう。


5 因果関係の積極事情
①事故態様
事故の衝撃が大きい
②症状の推移
事故直後に神経症状が出ている(⇔事故から相当期間経過後に神経症状が発生)
③事故以前の症状
なし
④年齢
30代以下
⑤MRI画像所見
神経症状に対応する椎間板以外には病変なし(⇔他の部分の椎間板にも多数の病変あり)
⑥医師の診断書
事故が原因の外傷性ヘルニアとの診断あり



信濃法律事務所 弁護士 臼井義幸











交通事故後に長期化する治療と症状固定

 交通事故に遭い、頭が痛い、肩や手先にしびれが残るといった神経症状では治療が長期化することがあります。治療期間が2年に及んだという方もいました。
 痛みやしびれがあるので病院に行くと少し和らぐ、自分としては必ず治したいので様子を見たい、こういうことはよくあります。
 相手保険会社は特別な事情がなければ、こういう場合、事故後半年ぐらいするとそろそろ治療を打ち切りたいと言ってきます。何も知らないと、そういうものかと思って症状固定に同意してしまって、後悔することがあります。
 しかし、症状固定は、医師が患者と相談して決めるものです。相手保険会社が決めるものではありません。症状改善の余地がある限りきちんと最後まで治療するという、保険会社に負けない姿勢が大切です。


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